九州大学共創学部 講義録|キャリア再設計と社会課題解決
肩書きに依らないキャリア形成
JICA海外協力隊経験から考える、
食と農で人生を再設計する方法
キャリアとは、職業名や肩書きを積み上げることではありません。
自分の原体験や違和感を、社会課題へ翻訳し、現場で役割をつくり直していくプロセスです。
「何者になるか」を急ぎすぎる時代です。
大学生であれば、就職先、業界、職種、資格。社会人であれば、肩書き、役職、年収、実績。 私たちは知らず知らずのうちに、自分の人生を“外から見える名前”で説明しようとします。
しかし、本当に大切なのは、肩書きそのものではありません。
自分は何に心が動くのか。
何に違和感を持つのか。
どんな社会課題を放っておけないのか。
そして、その課題に対して、自分はどんな役割で関わるのか。
九州大学共創学部での講義では、JICA海外協力隊としてウガンダで過ごした原体験を起点に、 「肩書きに依らないキャリア形成」と「社会課題解決への実践的アプローチ」についてお話ししました。
この記事では、その講義内容をもとに、これからの時代に必要な “共創型キャリア”と、食と農を通して人生を再設計する考え方について整理します。
キャリアは、肩書きではなく「問いの履歴」でできている
私のキャリアを肩書きだけで並べると、一見バラバラに見えます。
- JICA青年海外協力隊
- 中学・高校教諭
- 国際NGO職員
- 地域活力創生プロデューサー
- Big4コンサルタント
- 学校法人の食育推進顧問
- 食養経営コンサルティングファーム代表
- 合同会社食養メディア代表社員
肩書きだけを見ると、教育、国際協力、地域創生、経営、食育、農業と、領域を転々としているように見えるかもしれません。
しかし、自分の中では一つの問いがずっと続いています。
人が、自分の力で生きる感覚を取り戻すには、何が必要か?
ウガンダで戦災孤児の子どもたちと向き合ったときも、学校現場で生徒と向き合ったときも、 地域農業や食育の現場に入ったときも、この問いは変わりませんでした。
キャリアとは、肩書きのコレクションではありません。 自分の問いが、現場を通して深まり、社会課題とつながっていくプロセスです。
ウガンダで学んだ「教えるだけでは人は変わらない」という現実
JICA海外協力隊として赴任したウガンダでは、野球やスポーツを通して、子どもたちの人間形成に関わりました。
ただし、そこで行っていたのは、単なるスポーツ指導ではありません。
野球は目的ではなく、手段でした。 時間を守ること、仲間と協力すること、自分の役割を理解すること、失敗しても立ち上がること。 そうした非認知能力を育てる場として、スポーツがありました。
しかし、現場に入ってすぐに気づいたことがあります。
正しいことを一方的に伝えても、人の行動は変わらない。
日本で当たり前だと思っていた規律や時間感覚、指導の前提は、現地ではそのまま通用しません。 生活環境、家庭環境、文化、地域のルールが違えば、伝わり方も変わります。
だからこそ必要だったのは、相手を変えようとすることではなく、まず相手の世界を理解することでした。
教育とは、知識を渡すことではありません。 人が変わる環境を、関係性の中で一緒につくることです。
現場で培われた3つの力
ウガンダでの経験を通じて、私は3つの力を学びました。
1. 課題発見力
見えている問題の奥にある構造を読み解く力です。 「時間を守らない」「指示が伝わらない」「継続しない」といった表面的な問題の裏には、 文化、生活、家庭、教育機会、地域社会の構造があります。
2. 合意形成力
違う価値観を持つ人たちと、前に進むための合意をつくる力です。 共創とは、全員が同じ考えになることではありません。 違う前提を持つ人たちが、対話を重ねながら、共通目的を見つけていくことです。
3. 不確実性への対応力
現場は、計画通りに進まないことの連続です。 天候、人間関係、地域行事、家庭事情、予算、制度。 予定通りに動かない現場で必要なのは、完璧な計画ではなく、問い直しながら動く力です。
この3つの力は、国際協力だけでなく、日本国内の教育、農業、地域創生、経営の現場でも大きく役立っています。
帰国後、キャリアは一本道ではなかった
帰国後のキャリアは、決してきれいな一本道ではありませんでした。
教育現場、NGO、行政、地域創生、Big4コンサルティング、学校法人、そして独立起業。 さまざまな領域を越境してきました。
なぜ、越境を繰り返したのか。
それは、一つの現場だけでは、課題の全体像が見えなかったからです。
- 教育だけを見ても、子どもの課題は解けない。
- 農業だけを見ても、健康や地域の課題は解けない。
- 地域だけを見ても、経済や制度の課題は解けない。
- 経営だけを見ても、人の暮らしや文化は見えてこない。
だからこそ、教育、農業、経営、政策、地域、国際協力を横断しながら、 「人が育つ仕組み」「地域が続く仕組み」「食と農が暮らしに戻る仕組み」を考えるようになりました。
越境キャリアとは、肩書きを増やすことではありません。 課題の構造を見るために、視点を増やしていくことです。
食育・農業・地域創生への応用
ウガンダで学んだことは、海外でしか使えない経験ではありませんでした。
むしろ、帰国後の日本社会でこそ、その経験は活きました。
たとえば、学校法人の食育改革では、給食や菜園活動を単なる行事として終わらせるのではなく、 子どもの健康、感性、地域理解、家庭との接続まで含めて設計する必要があります。
地域農業の現場では、農産物を作るだけでなく、 農村文化、担い手育成、教育体験、地域経済、環境循環をつなぐ視点が必要です。
そして、食と農の現場に共通しているのは、次の問いです。
健康な土、健康な食べ物、健康な人を、どうつなぎ直すか。
食育は、知識を教えるだけでは不十分です。 農業も、生産するだけでは持続しません。 地域創生も、補助金やイベントだけでは続きません。
必要なのは、食・農・教育・地域・経営を一体で捉え、 現場に合った形で実装していくことです。
原体験を社会課題へ翻訳する3ステップ
講義の中で学生に伝えた大切なフレームがあります。
原体験を社会課題へ翻訳する3ステップ
- 心が動いた経験を書く
- その経験の奥にある社会課題を見つける
- 自分が関われる役割に変換する
たとえば、私の場合はこうです。
ウガンダで子どもたちと野球をした。
その経験の奥には、教育機会、非認知能力、地域社会、戦災孤児の自立という課題がありました。
そこから、スポーツや教育を通じて、人が自分の力で生きる感覚を取り戻す場をつくる役割が見えてきました。
その後、日本で畑や食育の現場に関わる中で、もう一つの原体験が生まれました。
子どもが土に触れると、表情が変わる。
食べ物を育てると、食卓への意識が変わる。
農家や地域と出会うと、暮らしの見え方が変わる。
そこにあった社会課題は、食育・健康・地域農業・教育の分断でした。
だから今、私は「食農教育の設計者」として、学校、農家、地域、企業、行政をつなぐ仕事をしています。
共創型キャリアの公式
自分のキャリアを考えるとき、職業名から考えると狭くなります。
「コンサルになりたい」
「起業家になりたい」
「教育関係の仕事に就きたい」
「地域創生に関わりたい」
もちろん、それ自体は悪いことではありません。 しかし、職業名だけでは、自分が本当に関わりたい社会課題が見えにくくなります。
大切なのは、肩書きではなく構造でキャリアを見ることです。
共創型キャリアの公式
私は、
〇〇という原体験をもとに、
〇〇という社会課題に対して、
〇〇という役割で関わりたい。
私自身の言葉にすると、こうなります。
私は、ウガンダでの人間形成教育と日本の食育・地域現場での経験をもとに、 教育・食農・地域の分断という社会課題に対して、 共創型の事業設計と実装伴走という役割で関わりたい。
このように言語化できたとき、キャリアは単なる職業選択ではなくなります。 自分の人生を、社会課題と接続する設計図になります。
食と農で、人生を再設計する
いま、多くの人が「このままでいいのか」という違和感を抱えています。
仕事に追われ、体が疲れている。
食べることが流れ作業になっている。
自然に触れる時間がない。
地域とのつながりが薄れている。
子どもに何を残せるのか、不安がある。
その違和感は、決して個人だけの問題ではありません。
食と農の距離が遠くなった社会。
土や季節と切り離された暮らし。
地域の知恵が受け継がれにくくなった時代。
健康を個人の努力だけに任せてしまう仕組み。
だからこそ、食と農を通して、自分の暮らし、働き方、地域との関わり方を見直す場所が必要です。
食養ファーマーズアカデミーは、単なる農業技術を学ぶ場所ではありません。
土に触れ、野菜を育て、食べることを見直し、地域とつながり、自分の人生を再設計するための学びの場です。
2027年2月11日 開校予定|北九州市小倉南区堀越
食養ファーマーズアカデミー
食養ファーマーズアカデミーは、食と農を通して人生を再設計する、大人のための週末農学校です。
有機農業、自然農法、菌ちゃん農法、食養、地域循環、教育的な農体験を横断的に学びながら、 自分の暮らしと仕事を見つめ直していきます。
こんな方に向いています
- 家庭菜園や有機農業に関心があるが、何から始めればよいかわからない方
- 健康・食育・暮らしを、もっと根本から見直したい方
- 半農半X、週末農業、地域との関わりに関心がある方
- 食と農を、自分の仕事・教育・地域活動に活かしたい方
- 肩書きだけではなく、自分らしい役割を現場でつくりたい方
食と農は、単なる趣味ではありません。
自分の体を整え、暮らしを整え、地域との関係を取り戻す入口です。
※募集開始・説明会日程は、公式HP・公式LINE等で順次ご案内します。
まとめ|問いを持って現場に出れば、後から線になる
キャリアは、最初から一本線でなくていい。
大切なのは、問いを持つことです。 自分の原体験や違和感を、社会課題へ翻訳することです。 そして、現場に入り、自分が関われる役割を少しずつ編集していくことです。
ウガンダでの経験も、教育現場での経験も、地域農業での経験も、最初から一つにつながっていたわけではありません。
しかし、問いを持って現場に出続けたことで、後から線になりました。 そして今、その線は「食と農で人生を再設計する」という新しい学びの場につながっています。
肩書きに依らず、自分の役割を現場でつくる。 その第一歩は、自分の暮らしと食を見つめ直すことから始まります。
食と農を通して、自分の人生をもう一度耕してみませんか。
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